空気を味方につける、暖かさの科学。
セーターやダウンジャケットが暖かいのは、繊維がたくさんの「空気の層」を抱え込んでいるからです。熱は、動かない空気を伝わりにくいため、この空気の層が、体温を外に逃がさず、外の冷気を中に伝えない、強力な壁(断熱層)の役割を果たします。
不織布も、この原理を利用して暖かさを作ります。無数の繊維が複雑に絡み合ってできた多孔質な構造が、内部に小さな空気層を作り出すことで、優れた保温性・断熱性を発揮します。
探求のポイント:
暖かさの秘密は、「動かない空気」

空気の層を、不織布でいかにして作り出すかが、私たちの探求です。
もし繊維と繊維の隙間が大きすぎると、その中で空気が動いてしまい(対流)、熱が伝わってしまいます。これでは、本当の意味での保温はできません。
本当の暖かさを生み出す秘密は、繊維をできるだけ細くし、それを三次元的に、複雑に絡み合わせることにあります。繊維が細ければ細いほど、よりミクロで無数の空気の小部屋が生まれ、空気は身動きが取れなくなります。この「動かない空気の層」を、どれだけ高密度に作り出せるか。それが、不織布の保温性能を決定づける、最も重要な技術なのです。
その「熱を伝えにくい」という性能を活かして、様々な場所で活躍しています。
熱の伝わりにくさは、JIS規格という国が定めた「ものさし」で客観的に評価されます。
保温性試験 (JIS L 1096 A法):
一定の温度に保たれた熱板の上に不織布を置き、どれだけ熱が奪われるか(熱損失)を測定します。この数値が小さいほど、熱を逃がしにくい、つまり保温性が高いと評価されます。
キーワード解説
多孔質(たこうしつ):
内部に、たくさんの小さな孔(あな)や隙間を持つ物質や構造のことです。不織布は、繊維が絡み合ってできた典型的な多孔質体です。
対流(たいりゅう):
空気や水などの流体が、温められて上昇し、冷えて下降することで、流れながら熱を伝える現象のことです。

どうやって、「動かない空気の層」を効率的に作り出すのでしょうか。そこには、目的に応じた製法の選択があります。
極細繊維を生み出す力(メルトブローン製法)
「探求のポイント」で述べた、保温性の鍵となる「極細繊維」。メルトブローン製法は、溶かした樹脂を高温の風で吹き飛ばして作るため、非常に細い繊維を効率的に作ることができ、高密度な空気層の実現に適しています。
三次元に絡み合わせる力(スパンレース製法)
高圧の水流で繊維を三次元的に、かつ複雑に絡み合わせるスパンレース製法もまた、空気の小部屋をたくさん作り出すのに適した方法の一つです。
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