「拭き取る力」は汚れに合わせる
一口に「拭き取る」と言っても、相手にする汚れは様々です。パンくずのような大きなゴミ、目に見えないミクロなホコリ、そして水や油などの液体。私たちは、それぞれの汚れの性質に合わせて、不織布の構造そのものを設計しています。
例えば、大きなゴミを捕まえるためには、網目状の「メッシュパターン」を。
レンズを傷つけず、拭き跡も残したくないメガネ拭きには、「極細繊維」を。
さらに、クリーンルームで使うワイパーには、それ自体がホコリを出さない「低発塵性」が求められます。目的が違えば、最適な「拭き取る力」も変わります。
汚れの大きさに合わせて、構造を変える。
落としたい汚れの種類や大きさに合わせて、不織布の構造を設計しています。



探求のポイント
「きれいになった」を、どう証明する?
最も難しいのは、「よく拭き取れる」という感覚的な性能を、いかに客観的な「数値」で評価するか、という点です。評価することができなければ、正しく「改善」することができません。とはいえ、人が手で拭くと、力の入れ具合やスピードが毎回変わってしまい、正確な比較はできません。
そこで私たちは、ワイパーにかける重さ(荷重)や引っ張る速さを厳密に決め、誰がやっても同じ条件で比較できる、独自の試験方法を確立しました。さらに、顕微鏡と画像解析ソフトを使い、「汚れがどれだけ残っているか」を面積で算出し、「除去率(%)」として数値化します。このような地道な工夫を重ねることで初めて、「感覚」という曖昧なものさしを、「科学」という客観的なものさしへと変えることができるのです。

ご家庭の掃除から、精密な作業現場まで。様々な「きれい」の場面で活躍します。
私たちは、JIS規格などの公的な基準と、独自に確立した「ものさし」の両方で、性能を厳しく評価しています。
拭き取り性(社内法):
標準化した板の上で、たんぱく質や皮脂を模した「疑似汚れ」を、一定の条件で拭き取ります。拭き取り後の汚れの残り面積を画像解析で算出し、「除去率(%)」として性能を数値化します。

発塵性(JIS B 9923 応用):
ワイパーをドラムの中に入れて回転させ、その時に発生するホコリ(粒子)の数を専用の機械で計測し、製品自体の「きれいさ」を評価します。
キーワード解説
スパンレース:
繊維を重ねたシートに、高圧の水のジェット水流を噴射して、繊維同士を絡み合わせる不織布の製造方法です。
分割繊維:
複数の異なる種類の樹脂が組み合わさった特殊な繊維。高圧の水流などを当てることで、それが細かく分割され、10μm以下の「極細繊維」になります。
リント:
糸くずや、繊維くずのこと。クリーンルームなどでは、製品からリントが発生しないことが非常に重要です。
どうやって、目的に合わせた「拭き取る力」を生み出すのでしょうか。そこには、水の力を巧みに利用した技術があります。
水の力(スパンレース製法)

私たちは主に「スパンレース製法」で拭き取り用の不織布を作ります。高圧の水流で繊維を絡み合わせるこの製法は、接着剤を使わないため衛生的です。
構造をつくる力(パターンネット)

凹凸のある特殊なネットの上から高圧水流を打ち付けると、凸部分の繊維が吹き飛ばされて穴が開き、大きなゴミを絡め取る「メッシュパターン」が生まれます。
極細繊維を生む力(分割繊維)

「分割繊維」という特殊な繊維に高圧水流を当てると、繊維が細かく分割され、ミクロな汚れをしっかりキャッチする「極細繊維」へと変化します。拭き跡を残さないメガネ拭きなどには、この技術が欠かせません。
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