静けさを、織りなす挑戦。
音は、「空気の振動」です。
その振動が不織布を通り抜ける時、複雑に絡み合った無数の繊維を細かく震わせます。このとき、音が持っていた「振動エネルギー」が、ごくわずかな「熱エネルギー」に変わります。エネルギーを失った音は、小さく、静かになります。これが、不織布が音を吸収する基本的な仕組みです。
ひと目でわかる!音が静かになる仕組み

探求のポイント
音の「高さ」で変わる、吸音の難しさ
この機能で最も難しいのは、すべての高さの音を、一つの材料で吸収することです。
人の話し声などに多い「中くらいの高さの音」は、繊維を細かく、密にすることで吸収しやすくなります。しかし、単純に繊維を密にすれば良い、というわけではありません。
繊維を密にしすぎると、キーンと響くような「高い音」は、硬い壁に当たったボールのように表面で跳ね返されてしまい、中に入ってこないので吸収できません。
逆に、ドンドンと響くような「低い音」は力が強く、分厚くて重い壁でないと防ぐことができません。しかし、自動車部品などの限られたスペースや重さの制約の中で、無限に分厚く、重くすることは不可能です。
軽さを保ちながら、いかにして厚みのある構造を作るか。この「あちらを立てればこちらが立たない」という難しいバランスを乗り越えることが、私たちの挑戦です。
① 実際の使用環境に近い性能を測る:「残響室法」
規格: JIS A 1409
方法: 特殊な大きな部屋(残響室)の床に、10㎡以上の大きな不織布を敷き、様々な方向からランダムに音が当たる状態で吸音率を測定します。
目的: 実際の部屋や自動車の内部など、様々な角度から音が響く現実の環境で、どれだけ性能を発揮できるかを評価する、より実践的な試験です。
② 開発段階で、材料の基礎性能を測る:「垂直入射法」
規格: JIS A 1405
方法: 専用の筒(音響管)の中に、円形の小さな不織布を入れ、まっすぐ垂直に音を当てて吸音率を測定します。
目的: 材料開発の初期段階など、まだ大きな不織布が作れない時に、少量の材料で基本的な性能を調べるための試験です。
周波数(Hz:ヘルツ): 音の高さを表す単位です。数値が大きいほど「高い音」、小さいほど「低い音」になります。
これまでと、これからの挑戦
実は私たちは過去に、穴の開いたフィルムと不織布を組み合わせた吸音材を開発し、特許も取得しました。しかし、残念ながら実際の製品として採用されるには至りませんでした。
ですが、私たちは諦めていません。現在、従来よりもはるかに細い繊維を作り出す「メルトブローン」や「ナノファイバー」といった新しい技術を使って、「軽くて、分厚く、様々な高さの音を吸収できる」という、理想の吸音材開発に、今も挑戦し続けています。
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