不織布で作る安全性と快適性

不織布に、どのような「可能性」を織り込めるか、私たちの日々はその探求の連続です。それは時に、これまでになかった風合いや、新しい機能性だったりします。
今回は、医療現場の病室における「安全性」と「快適性」という、二つの課題に同時に応えた不織布カーテン開発の物語です。
病室カーテンの課題
2015年、周産期医療のパイオニアとして、全国の医療機関へ衛生材料を提供する株式会社リリー様(新潟市)からお問い合わせを頂きました。常に医療現場の最前線の声に耳を傾けている、衛生管理のプロフェッショナルです。
「難燃性を持ち、かつ衛生的な不織布で、新しい病院用カーテンは作れないだろうか?」
これまでの病室のカーテンは、患者さんのプライバシーを守る必需品である一方、院内感染のリスクを抱え、特に安価な製品はその多くが建築基準法の難燃性を満たしていませんでした。この複合的な課題が、私たちの新しい「試作」の始まりとなりました。
経済的な品質
まず向き合ったのはどの製法を選ぶか、という選択でした。コストを考えればスパンボンド製法が優位ですが、素材の特性上、難燃化は容易ではありません。価格で勝負できない以上、別の価値を追求する必要がありました。
そこで選んだのは、スパンレース製法です。
理由は、入院患者さんの「心」でした。スパンレース不織布は、柔らかく、布製カーテンに近い自然なドレープ性(しなやかさ)を持ちます。落ち着いた風合いは、患者さんの不安を和らげるといった、心理的効果をもたらす可能性があります。また、繊維が絡み合う構造は透けにくく、プライバシー保護という役割にも適しています。
15年の蓄積
スパンレースの難燃化も簡単な道のりではありません。不織布に難燃剤を固着させる「バインダー(接着剤)」は、相性を見つけるのが非常に難しいのです。しかし、この困難な要求に対し、私たちは迅速に応えることができました。なぜなら、この挑戦は今回、始まったものではなかったからです。
難燃化技術の探求は、2000年頃、自動車資材の分野で始まっていました。約20種の難燃剤と約10種のバインダー、およそ50組もの組み合わせを、約3年という歳月をかけて地道に検証した知見が、すでに社内には蓄積されていたのです。日々の地道な研究開発が、未来の課題を解決する。これこそが、私たちの信じる「日々しさく」です。
抗菌という常識を問う
開発も大詰めを迎えた頃、リリー様からの当初の要望に、改めて向き合いました。「淡い色彩」と「親水性」。患者さんの心を和ませる色と、万が一、体液などが付着した際に、それと見てわかるようにする機能です。
ここに、従来の「常識」を覆す、新しい安全の形を見出しました。

これまでは「抗菌」、つまり菌を抑えることが主眼でした。しかし、そうではなく、「汚染のリスクを、誰の目にも明らかにし、速やかに交換・廃棄する」。これこそが、より本質的な安全管理ではないか。この「発見」が製品の核となりました。
価値の証明
こうして完成した製品の独自の着想は、「特許第6795822号」として公に認められました。「人の体液が付着して生じるシミを、生地の色と界面活性剤の組み合わせによって見分けやすくし、交換の必要性を目視で判断できるようにした点」。ここに、私たちの独創性があります。
特許成立後、第三者からの異議申し立てを受けましたが、再審査でも権利は維持されました。それは、この技術が業界から注目される価値を持っていることの、何よりの証左と言えるでしょう。
現在は新型コロナウイルス等の感染症対策にも有効な製品として、全国の多数の医療機関や介護施設で採用されています。
なによりも一枚のカーテンが病院の環境を改善し、そこで過ごす人々の健やかな生活を守る一助となること。それこそが、私たちの願いです。
商品名:
ディスポ防炎カーテン
販売:
株式会社リリー
https://www.lily.co.jp/
「日々しさく」という言葉は、
私たちのものづくりへの約束です。
この記事を支える技術



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